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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第5回 経営戦略に現れる歪み~

パリ同時多発テロから早くも一月近く経ちますが、COP21の開会の際には空港からパリへの高速道路やパリ環状線、パリ市内道路の一部が閉鎖されての物々しい警備が敷かれ、現在でもパリ市内やショッピング・センターなど重装備の警官が闊歩するのが日常となりつつあります。

さて、今回は通常通り「グローバル企業」コラムとして「経営戦略に現れる歪み」について書かせていただこうと思います。

企業の規模が大きくなってくれば、様々な部署が経営戦略に関わってくることになるわけですが、関連部署が多くなればなるほど経営戦略の方向付けが難しくなってきます。基本的には「経営企画」部署を主軸として経営戦略が練られていくわけですが、「経営企画」部署は総じて本社の日本国内にあり、規模の大きい米国拠点や欧州拠点に同部署が存在するにしても、やはり一番重要視されるのは本社の「経営企画」部署ということで、『海外』からの要望が届きにくいという事態が往々にして発生します。「届きにくい」というよりは「後回し」にされる感があるといったほうが良いでしょうか。

海外顧客企業を担当する部署は本社の営業部と窓口となっている海外事業所の営業部の二本立ての形である場合が多いと思いますが、現地部署が「売り込みたい」と思うモノと本社部署が「売りたい」モノの間にずれが生じる場合もあれば、このズレを解消して双方合意を得たとしても、最終的には技術部の開発余地があるかどうかという段階で、「上位顧客」である日本国内企業が優先され海外企業要求にまで対応できないという回答が本社サイドより送付されてくることが多々あります。これが長年続けば、海外事業所ローカルスタッフは「どうせ本社は余力が出来たときにしか海外顧客を相手にしない」と志気を失い、優秀な人財であればさっさと見切りをつけて転職してしまうでしょうし、海外拠点ローカルの入れ替わりが激しく安定しないといった悪循環が起こりえます。これでは、せっかく海外進出した意味がなくなってしまいます。

現地部署を持つ利点は、顧客のニーズを逸早くキャッチしその情報を展開できる点です。その一方で、国内営業部なり、駐在として日本より出向してくる社員なりは、本社の意向を十分に理解した上でどのような要求を本社に出せば意見が通りやすいかを認識している利点を持ちます。この双方の利点を上手く生かし、如何に僅かしかない余力を引き寄せて海外顧客のニーズに応え、顧客開拓に励むかが「グローバル人財」が挑んでいく課題であると考えます。言うは易しですが、実行するのは大変です。中小企業であれば素早い対応、事細かな対応が可能なのでしょうが、企業規模が大きくなるほど責任の所在が曖昧になりチャンスを逸してしまいがちになりかねないため、その点に注意しつつ臨機応変な舵取りを行っていく柔軟性と、長期的且つ広範なビジョンが要求されるタスクであるからです。

以上は「製品」単位のミクロな視点での戦略の相違の話ですが、一方でマクロな視点での本社サイド経営方針の変更が海外拠点に浸透するまでに時間がかかるといった問題もあります。競合他社との合併や企業トップの交代によって、これまでの経営方針とは異なる経営方針が掲げられた場合、本来であれば速やかに情報転達されなければいけないはずなのですが、「駐在」にまでは転達されるもののそこから先に情報が進まないといった状況が本邦企業においてしばしば見受けられます。おそらく、経営方針が180度変更された場合等、自分たちでさえ理解に苦しむ状況をどうにも説明できないからなのだろうと推察はできるのですが、それでも説明しないことには何も前に進んでいかないのに、こういう場合にも責任の投げ合いに始まり、ぎりぎりまで事態を放置する悪しき事例には事欠きません。

その他にも、本社自体の経営方針は変わらずとも、海外拠点の社長が変わるたびにその拠点の経営方針が変わり、海外拠点が長期ビジョンを持てないといった問題も散見されます。これは必ずしも日本企業に限った話ではないかもしれませんが、とかく海外拠点が長期的な経営戦略を持ちづらく、本社に振り回されがちであることを示す一例として留意していただきたく思います。

折角、グローバル進出の足がかりとして海外拠点を定めたのであれば、それを最大限に生かすためにも、海外拠点の生の声を組み入れた長期経営戦略を練り、本社サイドと海外拠点の利点を生かして双方協力の下グローバルビジネスに取り組んでいくのがあるべき姿です。社内の陣取り合戦に現を抜かしている猶予などグローバルビジネスの現場にはありません。

【執筆者スケジュール】

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

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