弊研究所の研究員コラムを掲載いたしました - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
  1. HOME
  2. ブログ
  3. 弊研究所の研究員コラムを掲載いたしました

弊研究所の研究員コラムを掲載いたしました

20200625

【憲法9条改憲論を考える】

憲法改正をめぐって6月19日に自民党広報のツイッターアカウントが公開した
『教えて!もやウィン』を巡り議論を呼んでいる(https://www.fnn.jp/articles/-/55320)。
改憲論の争点のひとつである日本国憲法9条(以下「憲法9条」)について「憲法に関する世論調査」
(2020年5月、時事通信: https://www.jiji.com/jc/article?k=2020062100234&g=soc)によれば、
「改正しない方がよい」との回答が69.0パーセントに上った(「改憲する方がよい」は29.9パーセント)。
同記事は、安倍晋三首相は憲法9条に自衛隊の存在を明確に位置付けるべきとして改憲への意欲を示しているが、
安倍政権を支持する人でも半数以上が憲法9条改憲には反対する意見を示していると伝えている。
詳しく見ると憲法9条改憲をしない方がよいと思う人の割合は、
安倍内閣を支持しない人では77.1パーセント(賛成は22.1パーセント)、
支持する人では56.8パーセント(賛成は41.9パーセント)となっている。
また「改正しない方がよい」理由としては「戦後の平和と安定に大きく寄与したから」が最多となり、
次いで「軍事大国化の歯止めになるから」であった。一方で改憲そのものについては「改正する方がよい」が
46.0パーセント(最多の理由として「時代にそぐわなくなっている」)であったのに対し
「改正しない方がよい」は52.4パーセント(最多の理由は「平和主義が軍事大国化の歯止めになる」)であった。

憲法9条は周知の通り、「戦争の放棄」と題された日本国憲法第2章に置かれるただ1条の条文である。
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、
武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

1945年の第二次世界大戦終戦からの75年は日本国憲法の平和主義の下での「戦争をしない国」としての年月であった。
しかしそれは同時にほぼ一貫して解釈改憲を行い、かつ「自衛」や「国際貢献」を根拠とした明文改憲を主張する、
現実が常に理念に違反してきた年月でもある。
こうした議論の背景にあるのは「軍事力による安全保障」という論理であろう。憲法9条をめぐって
「(軍事による)安全保障か(非武装という)平和か」という二者択一の議論がなされてきたことに問題はなかったのだろうか。
9条をめぐる安全保障議論として問われるべきは「安全保障か平和か」ではなく
「軍事的安全保障か非軍事的安全保障か」ではないか。言い換えれば、
「軍事力によって平和が実現されうる」と考えるか否かであろう。
従来安全保障は自国領土への外敵の侵略を軍事力によって守ることであった。
しかし特に核兵器の登場によって、軍事力の使用には大幅な制限がかけられるようになった。
他方非軍事的な安全保障としては外交をはじめとする国家間の信頼醸成、
そしてより広く平和な国際環境構築のために働きかけていくことも考えられよう。
「戦争はごめんだ」と叫ぶのではなく、どうしたら戦争をやめさせることができるのか、
「平和の技術」を考えるべき時だとした宮沢俊義(『平和と人権―憲法二十年(中)―』東京大学出版会(1969))の
指摘は今もなお意味を持つ。憲法制定から75年が経つ今、グローバル化の進展や安全保障上の脅威の多様化(内戦や国際テロリズムなど)、
軍事力の持つ意義の変化(核抑止論など)といった国際環境の変化を踏まえた軍事的/非軍事的安全保障の可能性の検討が
改憲そのものの是非を問う前になされるべきではないか。
他方で「時代に合わせる」ということには注意すべき点もある。安倍政権が「時代に合わせた改憲」を
理由として挙げているが、そこでは(そこに今いる)人々の意思決定の合意ということだけが
過度に強調されすぎてはいないだろうか。ましてや憲法改正に必要な「各議員の総議員の2/3以上の賛成」(憲法96条)という
発議の要件が示すように、それは単なる一つの政権の意思決定ではない。憲法に示される理念は歴史の流れの中で人類が培ってきた、
時々の政権やその立法によって侵害されてはならない「価値」である。憲法制定からの70余年がそうであったように、
今改憲をすれば後の世代にとってもそれが規範となる。戦後政治の中で違憲の状態を許してきたことを看過してはならないが、
上記の「戦後の平和と安定に大きく寄与したから」「軍事大国化の歯止めになるから」といった改憲反対の理由も示すように、
戦後の歴史の中で曲がりなりにも作り上げられた枠があるのも事実である。
そこで前提とするルールを変えるということの意味はよく考えなければならない。
「憲法を変えない」ということが目標なのではない。しかし憲法の理念をどう考えるのか、
それは私たちがどのような未来を創っていくのかということである。
憲法9条に即していえば軍事的安全保障によって「普通の国」となる未来か。
それとも非軍事的手段によって平和な世界に貢献する未来か。後者を取ることは決して簡単なことではない。
他国から攻められることのない国際関係・国際環境を創り出していく決意が求められよう。
こうした議論を踏まえて初めて、9条改憲を議論することができるのではないか。

グローバル・インテリジェンス・ユニット
佐藤 奈桜 記す

関連記事