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アスペルガー症候群を扱ったスウェーデン映画『Simple Simon』

おはようございます、特別コラムニストのふらぬーるです。

3月は別れの季節。社会人になったり、遠い地へ越してゆく友人を見送り、毎日のように杯を交わしていた一カ月でした。

病院実習でお世話になった先生が異動されるので、「せっかく打ち解けられたと思いましたのに、残念です。」とこぼすと、「この盃を受けてくれ どうぞなみなみつがしておくれ 花に嵐のたとえもあるぞ さよならだけが人生だ」と井伏鱒二の一節をポロリ。なかなか悲しい内容ではありますが、こんなふうに詩で返答されるならば、「ふむ、そういうものだよなぁ」と感慨深くてよいものです笑

さて、ということで今月はなかなか演劇劇場に足を運べなかったので今回は最近観たスウェーデン映画のご紹介を。

『Simple Simon』という2010年のスウェーデン映画です。主人公である、アスペルガー症候群の青年の世界観、周りの人々の温かい対応の演出、そしてスウェーデンらしいポップな色遣いの映像が秀逸な作品です。

あらすじを簡単に。

 気に触ることがあると、ロケットに見立てたドラム缶にこもって、宇宙へと飛び立つ想像にふけるアスペルガー症候群のシモン。そんなシモンを理解知る兄のサムは、恋人とクラス新居に彼を迎え入れて共同生活を送ることに。しかし、遠慮せずに自分の生活ペースを事細かく守ろうとするシモンに嫌気がさした恋人は出て行ってしまう。落ち込むサムの姿に心を痛めたシモンは、彼にぴったりでパーフェクトな恋人を探しだそうとする。

映画のオープニングには、数字や記号がチカチカと飛び交う、まるでアインシュタインの頭の中を覗いたような、SFっぽい映像が流れ、「あれ、ホームドラマのはずでは?」と面食らいました。実は、すっかり自分は宇宙にいると思い込んでいるシモンの世界なのであることを暫くたってからやっと理解できます。

また、人の感情を汲むことが苦手な彼が、人の目つきと口角から「嬉しい」「悲しい」「怒っている」の3つにきっかり分けてから表情を読みとる様子を、ポップな記号や映像を駆使して分かりやすく表現した手法にも脱帽です。

しかし最も印象に残ったのは、兄のサムの弟への理解の深さでした。ドラム缶にたてこもるシモンに両親は「お願いだから早く出てきて。」と悲願しますが、シモンはうんともすんとも応えません。両親はもうシモンにはお手上げで、いつも兄に世話を頼りきりです。兄は弟がつくりだした宇宙世界という物語に付き合って、物語での役柄をきちんとこなし、手際良く弟を現実世界に戻します。

兄弟は親より客観的に接することができりゆえに、周りにはわけがわからないシモンの世界で役を演じる余裕があるのでしょう。毎日、きっかりスケジュール通りに予定が進まないと気がすまないシモンは、サムの恋人がシャワーを使っていても、「○○時になった。僕が使う時間だ。」と扉を開けて風呂に入ろうとするし、「○曜日はピザ、○曜日はサンドイッチ、○曜日は・・・」と曜日ごとに決めたメニューが出てこないと癇癪を起します。しかも人に指一本でも触れられるとパニックを起こします。恋人が怒って出ていくのも当然ですが、サムは「僕が君を必要なように、シモンには僕が必要なんだ。シモンを一人にすることは絶対できない。」とシモンのために恋人と別れます。兄といい、シモンが見つけてきたサムの新しい恋人候補といい、シモンの周りの人があまりにもよい人すぎて、現実はこんなに上手くいかないよとは思うのですが、彼らの温かく自然な対応から知的障害を持つ人たちへの接し方について学ぶものが多くありました。

この映画の主人公が患うアスペルガー症候群は、人口のおよそ0.5~0.75%が同疾患だと言われています。私も小学校の同学年に二人いました。そして、大学生になって家庭教師をさせていただいた中学二年生の男の子がアスペルガー症候群でした。映画を見ながら、教科書を全く開いてくれず、やっと鉛筆を持っても集中力は5分、すぐにトイレに籠ってしまう彼のことを懐かしく思い出していました。電車の話をするときだけ、目をキラキラさせながら語るのだけど、お母さんに暴言ばかり吐いていていた彼。彼の信頼を得るために、トイレに逃げ込まれないようにするためには、電車の話を前置きでうんと長くすることになります。だから授業が全然進まなくてお母さんに申し訳なさでいっぱいだった当時を振り返り、今ならもっと心を開いてくれるような対応ができたのだろうかと考えながらサムのシモンへの対応を興味深く観ました。

アスペルガーや自閉症といった広汎性発達障害の診断がつく子どもの数は年々増えており、その理由はひとつには障害自体の認知度が高まり、今まで見逃されていた軽度なケースでも早々に医師が介入する頻度が増えたということ、また診断基準にはかなり主観性が含まれるということ、そしてもうひとつには、出産の高齢化は子どもが知的障害を伴うリスクを増加させているということが挙げられます。

自閉症と異なり、アスペルガー症候群は知的障害を伴わず、むしろ知能や記憶力が一般人より非常に高いこともあります。しかし、社会性が低く、限局した常同的で反復的な関心などの特徴を持ちます。有名人ではスティーブン・スピルバーグも同症候群と診断された過去を語っています。彼のように秀でた能力を発揮し、各界で活躍している方もたくさんいる一方で、能力を生かしきれないまま、仕事が続かず親元を離れられない人も多いのが現状です。特に日本では成人知的障害者の親との同居率は約60%と非常に高くなっています。*1

一方、『Simple Simon』の舞台となったスウェーデンは福祉国家として名高いですが、障害者の自立をサポートする体制が整えられており、親や兄弟との同居率は5~10%に留まっています。およそ7割が単身生活、そして2割がグループホームと呼ばれる知的障害者同士でシェアハウスをしています。*1

こんなにも単身生活者が多いのは、スウェーデンの知的障害者の多くが自立して働いていることを反映しています。彼らの就職をサポートする体制が整っており、一般人の障害への理解も日本に比べて高いのです。映画で、シモンは「触れるな、注意。僕はアスペルガー症候群です。」というシールを洋服に貼っています。街の人がシモンとぶつかりそうになったら、シモンはシールを指さし、「僕はアスぺだ。ぶつからないように気をつけてください。」と言う場面があります。そう言われて、「そうなんですね、ごめんなさい。」とすぐに理解する街の人にも驚きますが、シモンの行動からは、「僕はアスペルガー症候群だから、それを考慮されなければならない。」というある種の権利者意識も伺えます。それは日本人の我々からすると多少厚かましく感じられるのかもしれませんが、彼が彼らしく、そして社会で自立して生きるために、必要な勇気でもあり、武装でもあるのだとも解釈できるのではないでしょうか。

重いテーマを扱いつつ、シモンが仕事に、サムの新しい恋人探しに、と日々一生懸命奮闘していく様子をコミカルに描き、観終わった後、温かい気持ちにさせてくれたた映画でした。日本語字幕付きDVDもリリースされているので興味がわいた方はぜひご覧になってください。

 

精神障害者の地域生活支援に関する研究(Ⅰ)-日本とスウェーデンにおける日中活動の場の実態-大阪養育大学紀要より(2008.9)

http://ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/2097/1/4_57(1)_11.pdf

 

 

【執筆者プロフィール】
flaneur (ふらぬーる)
略歴 奈良県出身、1991年生まれ。都内医学部に在籍中。こころを巡るあれこれを考えながら、医療の『うち』と『そと』をそぞろ歩く日々。好きなことば : Living well is the best revenge.

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