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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第10回 マネージメント2 :システム構築~

さて、今回は前々回の続きとして、「日本企業が直面する課題」の中でも最重要課題となるマネージメント、の中でもシステム面をテーマにしたいと思います。

海外への進出を試みる程度の企業規模であれば、ほとんどの場合日本国内でしっかりとしたシステム構築が行われているかと思いますが、このシステムをそのまま海外に持っていって通用するとは限らないのが海外拠点システム構築の上での一番の問題点です。よく耳にするのが、日本のシステムは詳細過ぎて難しすぎ、現地ローカルには理解できない或いは運用できないという問題です。そのため重要な点を逃さずに理解しやすい簡素化したルール作りとそのマニュアル化が必要になってきます。特に欧米の海外拠点では、日本国内よりもISO管理が厳しくなされる傾向があるので、プロセス作成、マニュアル化が重要となってくるのです。が、海外に拠点ができて間もないころはここに重点を置いていても、次第に監査のためのマニュアル化となりがちであり、マニュアルの数だけ知らぬ間に増えていくのに実際そのマニュアルがうまく運用されていない、或いはマニュアル作成をローカルに完全に任せてしまい実際あるべき姿とは異なっていることに問題が起こるまで気付かないといったような事態が生じることがあります。海外拠点はあくまで同じグループ内の企業であるわけですから、ある一つのシステムが本社に存在する場合、多少の色付けや簡素化はあったとしても、全く異なるシステムを別に作るのは無駄であるばかりでなく、本社とのやり取りをする際などに誤解を招きかねません。こうした意味でもシステム構築の一部を仮にローカルに任せたとしても、そのシステムを本来あるシステムと照らし合わせて評価・検討できる人材が必要であり、信用云々の問題ではなく、両方を知った上で比較確認するという意味で完全に任せっぱなしにしては問題が起こる可能性があることを念頭に入れておくべきです。署名だけすればいいのではありません。すでに出来上がっている「現地」マニュアルを、監査等で第三者に指摘されて変更することには抵抗を感じないローカルも、内部で問題が起きた際に本社や駐在員からの指摘などで変更するのには非常に抵抗を感じるものであり、簡単に物事が進まなくなることを考慮に入れれば、最初の作成時にきっちり精査することが結局は一番効率的となるからです。

さて、システム構築ができたら次はシステム運用のための教育なのですが、これもISO管理の厳格化からくる弊害なのか、監査用に教育を行ったエビデンスを残すことが目的となってしまい、実際の業務で運用することによりシステムを使いこなすという本来の目的が疎かになっている事例が見受けられます。また、本邦企業の海外拠点ということであれば、プロセスが必ずしも海外拠点のみで完結するわけではなく、海外拠点のプロセスの先に本社なり他拠点なりでのプロセスが続き、大きな輪として業務が回っていることが多いにもかかわらず、こうした意味での教育がしっかりとローカルになされておらず、自分の所在する拠点における「プロセス」にしか関心がなく、そこさえ上手く回っているようにみえれば全て良しとの誤った認識が蔓延している事例も見受けられます。例えば、日本で作成するものを海外拠点が売却するという業務を行っている場合、日本における在庫まで考慮した上で拠点の在庫管理を行うことが求められているにしても、そこをローカルに理解させるのが非常に難しく、顧客のニーズがなくなる際に拠点在庫は0になっているものの、本社或いは仕入先に多量の在庫が残ってしまうといった事例はよく耳にするところです。本邦企業の海外拠点である限り、業務が「海外拠点」のみで完結することはないのだということを理解させることが、海外拠点における最も重要な教育課題であることを念押しさせていただきたいと思います。

一方で、日本から派遣されてくる駐在員が海外拠点でのシステムをしっかりと把握していないために摩擦が起きることも往々にあります。駐在員にしてみれば日本にあるシステムが「正」であり、その派生形でしかない海外拠点のシステムについては存在していることは何となく知っていても、改めて理解しようとする手間暇をかける時間も余裕も無いというのが本音なのでしょうが、ここを理解しなければ海外拠点においてどのように仕事が回っているのか、本来あるべき姿も実際はそことどのように剥離しているのかも正確には見えてこず、思うようなマネージメントはできないと考えます。本来システムとは業務を行っていく中で改善されていくべきものであり、ルーティンワークでシステムを使用していく中で気付く点もあれば、第三者であるからこそ欠点が見えやすい点もあるものです。前述した、現地システムの変更や改良には多大な労力と時間がかかるため最初のシステム作りが肝心という文言とは矛盾していると思われるかもしれませんが、外部から新たに輪の中に入ることでの「気づき」は決して小さなものではなく、それを率直に話し合い、改善していける土壌作りが何よりも必要であると思います。そのためにも、本邦のみならず海外拠点でのシステムにも精通することは重要であり、現地の反発を招くことなく改善への導きをスムーズに行えるような手腕が求められるのです。

マネージメントとは「組織を発展させること」が目的であるのですから、「ヒト」も「システム」も発展させていかなければならないのがグローバル人財のタスクなのです。

 

【執筆者プロフィール】
川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。
現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

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