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安倍晋三総理大臣への公開書簡。 (連載「パックス・ジャポニカへの道」)

前略 安倍晋三様

貴職の極近くにいらっしゃり、かつ真に心ある方々よりお力添えを得て今年(2015年)1月2日に都内にて40分ほど直接お目にかかってお話をさせて頂いてから、早いもので10カ月余の月日が経ちました。あの御面会は事柄の性質上、いわゆる「総理日程」には一切記載されていませんが、その際に交わさせて頂いた言葉の一つ一つを小生は今でもよく覚えております。

あの時、小生が注意深く言葉を選びながらお伝えしようと試みたことはただ一つでした。

「アベノミクスが真に救国のためのプログラムとなるためには、これまで造られてきたあらゆる利権の網の目を乗り越えて、イノヴェーションを推し進めるものでなければならない。そしてそのためのブレイクスルーは東京電力福島第一原子力発電所において依然として続いている未曽有の事態に対して、総理大臣自らが陣頭指揮をとり、真正面から対処することによって初めて得ることができる」

そして私はあの時、そうした方向へと貴職が舵を切られるのであれば唯一無二の武器となるべき我が国の草の根レヴェルから始まったイノヴェーションを御説明致しました。すると貴職はこう述べられたのです。

「これ、本当かい?本当に実現するならばすごいことだね。ウチの事務所には経済産業省OBが公設秘書として勤めているから。彼にきっちりとこのことは伝えておくよ」

総理、覚えていらっしゃいますか?

しかし、その後、これまでのところ全く何も、そう「全くもって何も」政府はこの技術(具体的にはトリチウム汚染水を分解することができる世界でただ一つの技術なわけですが)について支援しようとはしてきませんでした。この問題に精通しているはずのいわゆる政府高官たちが何もしらないわけではないのです。むしろそのほぼ全員が政も官も全て、「最後に問題解決をするにはこの技術を投入するしかない」ということを知っています。ところが上からの指示が無いため、一切動かないのです。

ちなみに申し上げるならば、この技術についてはあの会談の当初、検証、すなわち再現性の確認という意味で未だ問題があったことは事実です。また、(技術的な話になってしまい恐縮ですが)厳密な管理下におかれるべきトリチウム水での実験は行っておらず、その同位体である重水による実験のみが成功裏に終了していたのでした。その後、開発者たちは我が国でも有数の最高学府に付属する研究施設とのコラボレーションを完全に自力で実現し、ついには「純粋なトリチウム水を65パーセント減容化すること」にまで成功しました。「100パーセントではないのか?」と言われるかもしれませんが、科学者の皆様は全員知っているとおり、そもそも「65パーセント減容化」であっても人類史上初の出来事なのです。このことが如何に強烈なインパクトをグローバル社会全体との関係で持つのかは、縁あって小生がお世話になることになった我が国有数の検証機関である公益財団法人の理事長様が先般述べられていました。何かと閉鎖的な我が国アカデミズムや産業界のみならず、全世界の名だたる検証機関にネットワークを持っている御方です。ちなみにこの理事長様は小生に対してこうおっしゃられていました。

「まずは福島第一原子力発電所から日夜大量に発生しているトリチウム汚染水の処理のためにこの技術を用いるのが良いだろう。しかし本格的にその広範な応用可能性を全面開花させたいというのであれば、未だに解くことが出来ていない原子力発電を巡るバックエンド問題にこの技術を投入するのが良いと考える」

話を元に戻します。―――端的に申し上げるならば、「今のやり方」をもし御続けになるというのであれば、残念ながら早晩、貴職に対しては“選手交代”という天の声が降って来ると述べておきたいと思います。その理由は極めて単簡です。御母堂・洋子様が貴職の出処進退について必ずお伺いを立てるあの御方が、貴職の御仕事ぶりについて根本的な疑念を抱き始めているからです。御存じとは思いますが、我が国の天皇陛下、そして海の向こうの米国の真のリーダーシップとの間に立って「日米同盟」の根幹を担っている“あの御方”です。

なぜ疑念を抱かれるようになっているのかといえば、その理由は極めて単純です。2つあります。

1つは余りにも杜撰な「異次元緩和」を日本銀行が貴職の“アベノミクス”の一環として行われることにより、日本銀行自身のバランス・シートがもはや修復できないほど歪んだものになってしまったからです。なぜこのことが米国にとって重要なのかといえば、余りにもこのバランス・シートが歪んでしまうと、「米国が求める時には何時如何なる時であろうとも、求められただけの金額のマネーを米国に対して提供する」という我が国が戦後一貫して“日米同盟”の根幹として維持してきた役割をもはや果たすことが出来なくなるからです。それもそのはず、日本銀行としてマネーを米国ではなく、我が国政府に対して与え続けているのが異次元緩和なわけですので。「民間企業」という建前をとっている日本銀行には、この意味での借金に限界が自ずからあります。

したがって米国は徐々に、本来ならば「自分だけに尽くすはずの貯金箱」である我が国がそう遠くない将来にその機能を果たさなくなくなるのではないかと考えているのです。貴職もご存知のとおり、米国の連邦準備制度理事会(FRB)公開市場委員会(FOMC)はここに来て政策金利の引き上げを逡巡し続けています。本来ならば、すぐにでもこの引き上げを行って米国債へとグローバル・マネーを集めたいところなのでしょうが、それによって確実に生じるグローバル経済の混乱、とりわけドル建てで大量の債務を抱えてきたエマージング・マーケットの諸国の経済がそれで一気に崩壊することが必至なのです。それに巻き込まれることになる米国の頼みの綱はただ一つ、「自分だけに尽くすはずの貯金箱」である我が国なわけですが、その肝心の我が国が満身創痍でその機能を果たせないということであれば政策金利を引き上げることは米国にとって自爆行為ということになってくるわけです。

総理、ちなみに問題の根源は日本銀行による異次元緩和そのものにあるわけではないのです。問題はその先にあって日本銀行から大量のマネー供給を受けているはずの我が国の市中銀行たちが一切、民間の資金需要を探し当て、これを育てる中でこのマネーをそこに注入していくという、元来の「銀行業務」を行っていない点にあるのです。「中小企業へのマネーの集中的な配分とそれを通じた育成」という課題は、小生が属しておりますグローバル・ビジネス・リーダーたちの集まりであるB20における根幹ともいうべきテーマですが、そのことについて我が国を代表する銀行の集まりのトップ・リーダーであった方にお話ししたところ、はっきりとこんなお答えを頂きました。

「それは君、我が国で言えば信金・信組がやるべき仕事だよ。銀行じゃない。毎日、毎日、中小企業の現場に通っては社長の親爺さんたちの顔色を窺い、あるいはそこで会計をやっている女将さんの様子を見て来る。そんな努力を続けない限りは、融資適格なんていうのは分かりっこないのさ。僕らが若い頃はやっていたけれどもね。しかしそれはもう、銀行の仕事じゃない」

小生は様々な皆様のお力添えを得ながら、我が国のメガバンク、準メガバンク、そして地方銀行において産業人財の育成、とりわけグローバル人財の育成を広く行っています。そしてそこでまざまざと毎回思い知らされているのが、根本において不可思議な、「平成バブル崩壊」後の我が国銀行セクターの現場レヴェルでの在り方なのです。受講生である銀行職員の皆さんは、我が国経済の根幹であり、かつ本来ならば銀行セクターにとって主たるお客様であるべき中小企業のことを全く理解していません。いや、もっといえば自分たちと比べて何と粗野な経済活動をしているのだろうと唾棄すらしています。「中小企業の親爺たちが密に続けている世界的なイノヴェーションを見つけて、それに融資をすることによって共に伸びて行こう」などという気概は微塵も感じられないのです。

なぜならば、そうすることが行員としての「評価基準」に入っていないからです。その代りに全くもって意味不明な英語テストで点数を上げることだけを義務付けられています。なぜそうなのかといえば、「差し当たり売上が立っている海外の銀行をM&Aをして連結決算で本邦の本社につなげれば、右肩上がりを演出でき、株価を押し上げることができるから」です。そのためにとにもかくにも「グローバルごっこ」が出来る人財が欲しい、それに応じる行員たちには評価を高くしようという本末転倒な努力が続けられているのです。

しかし差し当たりは連結決算によって売上を引き上げることが出来るこのやり方が早晩破綻するのは目に見えています。なぜならば、国際的な資金循環の実態とそれが織り成して来た世界史そのものについて何ら教育を受けてこなかったのが「平成バブル崩壊」後の我が国のバンカー(銀行家)たちだからです。実は彼・彼女らは「国際金融資本」「ロスチャイルド家」といったそこでの基本ワードについてすら何も知らないのです。それもそのはず、フランスのロスチャイルド家の当主であるアレックス・ロスチャイルド氏に対し、総理ご自身が何度なくアポイントを申込んでいるにもかかわらず、残念ながら先方より断られ続けている現状に鑑みれば、一般国民レヴェルでこうしたグローバル社会における根幹的なことについて一切知られていないのは当然のことかもしれません(ちなみにお聞きになられているとは思いますが、同氏が貴職にお会いにならないのは「時間の無駄だから。何の意味があるのか分からない」ということだそうです)。

頼みの綱の市中銀行がこのありさまですから、日本銀行のバランス・シートは歪んだままなのです。そしてこの意味で貴職の“アベノミクス”の将来はかなり危機的になっていると米国の真のリーダーシップは考え始めているのです。それがまず第一点です。

そして米国が気にしている第二点目は、東京電力福島第一原子力発電所の現状についてです。端的に申し上げますが、米国が最も注目しているのは世上しばしば語られている「二号機」ではないのです。むしろ表向きは“特に問題は無い”かのようにマスメディアでは取り扱われてきた「三号機」こそ、その関心の的なのです。

端的に申し上げましょう。米国はその軍事技術を駆使することで、我が国政府及び東京電力が全く把握出来ていない「三号機の炉心がメルト・スルーし、どの深さまで地中に落ちていってしまったのか」を把握し始めています。そしてこれが公表された暁には、「フクイチ」の問題がこれまでの我が国当局が見せてきた対応のように、徐々に声を静めて行けばよいような代物ではなく、正に文字どおり「人類全体の存亡にかかわる問題」であるという事実が露呈し、私たち日本人が「なぜこれまでこのことを隠してきたのか」と万邦の人々から非難囂々となることを米国は今から知っているのです。

ある時から福島第一原子力発電所とその周辺では不可思議な霧が晴れることがなくなりました。その理由も米国は知っています。「二号機」のみならず、「三号機」におけるこうした決定的な事態の進展とその放置により、地下水だけでは足りず、施設周辺の大気中にある水分まで反応し始めてしまったということなのです。その結果、トリチウム汚染水は当初想定をはるかに超え、無尽蔵に産出されてしまっているのです。総理、貴職はこのことを必ずや既に知っているはずです。仮に知っていないのだとすれば貴職にこの最重要な情報と分析を知らせようとしない官僚集団をすぐさま解任すべきでしょうし、仮に貴職自身がこれを把握しているにもかかわらず「隠蔽」を指示しているのだとすれば、国民との関係において決定的な背信行為です。いずれにせよ誠にもって忌むべき事態ですが、小生は貴職に対する最後の望みとしてこの2つの内、最初の事態であることを辛うじて期待しています。

“アベノミクス”がこのままではもはや成り立たないことは、「三本の矢」としてそれなりに堅牢な経済・金融・財政政策を打ち出した当初の構想とは大きくかけ離れ、そのヴァージョン2.0では単なる精神論、政策コンセプトに堕してしまったことから明らかです。そしてそれに対する不信感が今や全世界との関係で漂っていることは、いかに「官製相場」を試みたとしても常に外資勢がこれを大いに売り崩す動きを見せるところより明らかなのです。それもそのはず、米国自身が以上述べた二つの問題、すなわち「異次元緩和によって歪が極端なところまで生じている日本銀行のバランス・シート」と「メルト・スルーによって人類史上未曽有の事態を引き起こしてしまっている福島第一原子力発電所3号機」に鑑みて、対日戦略の抜本的な変更も余儀ないという姿勢を見せ始めているからなのです。総理、貴職の下にはこうした本当のメッセージは届いているでしょうか。

察するに貴職に届いているのはこうした真のメッセージではなく、米国のほんの一部を構成するに過ぎない軍産複合体とそれに直結する人士による相も変らぬ物の見方なのではないかと思います。総理、年始の会談に際して、貴職は私に対してはっきりとこうおっしゃいました。

「私はオバマと交渉する気はないから。彼が体現しているのは米国のほんの一部に過ぎない」

本当はあの場で申し上げるべきだったのだと思います。「それでは総理がお考えになっている”本当の米国“とは何であり、一体誰なのですか」と。恐らくは経済産業省の”主戦派“より、米国の軍産複合体とそれに直結する人士たちより、「アベノミクスは最終的に戦争経済で帳尻を合わせれば良い」と聞かされているのではないかと思います。なりふり構わず安保法制へと突っ込んでいった貴職の政策スタンスからはそのことが分かる人にはすぐに分かります。事ここに及ぶと、すなわち「インフレ」も「イノヴェーション」も有効ではないということになれば「戦争経済」によって景気回復を図るのは近現代において統治者の定石だからです。

しかし、よくよく考えてみて下さい。そのための戦費は誰が調達するのでしょうか。あくまでも主は米国、従は我が国という形を戦場ではとる以上、米国が無尽蔵に費やす戦費も我が国が負担する必要があります。これまでは確かにそのやり方でした。「湾岸戦争」も、「イラクに対する武力行使」も、そのいずれもこのやり方をとってきました。ところが米国は(何度も繰り返して恐縮ですが)日本銀行の著しく歪んだバランス・シートを見て、もはやこのやり方がうまくいかない危険性があることを察知し始めているのです。それこそが、南シナ海の人工島で中国と衝突寸前までの”演劇“をしながら、結局は本格的な開戦にまで至らない理由なのです。ちなみに米中は今回の事件発生より1時間後、軍当局同士での電話会談を行っています。誰も本気で戦争など望んでおらず、単に「戦争経済」を廻すために軍需を高めたいだけだということがこれでお分かりになるでしょう。

総理、はっきりと申し上げます。米国の本当のリーダーシップが貴職を現在の「日本国内閣総理大臣」という座に止めおいているのは貴職自身を「無策である」と考えているからです。変に独自の政策がとられることで、これまで戦後一貫して続いてきた「日米同盟」の根幹、とりわけコア中のコアである資金の我が国から米国への移転システムが害されてしまっては困るのです。そうであれば「日本国内閣総理大臣は無策であった方が良い」という価値判断がそこにはあります。

また1回目にその座を射止めてから後、精進され、決して不作法なことをされなかったことも米国は高く評価しています。その点が当時同様に総理の座を射止めたものの、その後、総理に再びなっていない同僚議員たちとは(「毛並み」は同じとはいえ)一線を画しているのです。これはこれで誠に喜ばしいことです。

しかし、米国とそれを「鏡」として表現される術を持たれている件の我が国の根元的権力は、この「無策さ」が徐々に決定的で取返しのつかない問題を起こし始めていると感じ始めています。そしてそのことをマーケットの猛者たちは機敏に感じ取り始めており、早ければこの2~3週間内にまずは「はっきりとした円高転換」となってこうした我が国を巡る考え方の変化は誰の目にも明らかになる可能性が高まっています。さらにいえば12月にはより顕著となり、「アベノミクスとは一体何だったのか」という大合唱が始まるはずです。

それだけではありません。時宜をとらえて出て来るのが、福島第一原子力発電所を巡る健康被害の実態です。「福島県」全域のデータを云々するのであれば何とか誤魔化しがきくかもしれませんが、同発電所の現場でこれまで作業を行って来た数千人の作業員たちについてはもはや隠しようがないのです。必ずやその健康状態の急激な悪化がリークされるに至り、国民世論を恐怖のどん底へと突き落とすはずです。そしてその反作用としての怒りが、誰にぶつけられることになるのかは、総理、貴職ならば十分ご存じであるはずです。

大変長くなりましたが、以上、卑見を申し上げました。これをお読みになり、どうすれば良いのかは総理ご自身のご判断に委ねたいと思います。そしてそのために然るべき方に然るべき形で小生からのこのメッセージをお届けすることにしたいと考える次第です。「局面」が本当に変わり始める前に対処されることを心から祈念しております。残された時間は、トルコ・アンタルヤで行われるG20サミットまでしかありません。

草々

2015年11月1日 東京・仙石山にて

原田 武夫記す

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