そして日本国債は暴落し、地方アントレプレナーシップの時代が訪れる。 (連載「パックス・ジャポニカへの道」)
今週は愛媛・松山を担当スタッフと共に訪れた。10月から開催予定である「四国グローバル経営者・起業塾 Season1 in 愛媛」の下準備のためである。現地ではいつもお導き下さる方の御尽力により実に有益なミーティングをこなすことが出来たが、それでもなお壁は厚いのである。その厚さを今回はあらためて実感した。
何が「壁」なのかといえば、要するに新しいものを一切受け入れまいという態度なのである。そしてありとあらゆる関係団体が実質的に“つるんで”おり、最後は親方日の丸よろしく、「県庁が後援に廻るのであれば私たちも支援します」と判断を官公庁にゆだねてしまう。それでは官公庁の側がそうやすやすと支援するのかといえば、事実上の大統領制である知事が「政治主導」で当該民間プロジェクトを推すと腹を決めない限り、絶対にそうはしないのである。結果として、よかれと思って提案することが水泡に帰す可能性すら出て来るのである。
無論、これは何も四国、あるいは愛媛・松山だけの問題ではないのである。否、率直に言うならば状況はむしろ同地で良い方だと言わなければならないだろう。むしろとっかかりが無いといったレヴェルではなく、時に反発すら見せる御仁しかいない地域も我が国にはたくさんあるのである。哀しいかな、それが我が国の現状である。「これまでも何も変わらなかったのだから、これからも何も変わらない」と思い込んでいる。そして外側から入り込む風を徹底して防ぐことで、己のわずかばかりの利益を守ろうとしている。その繰り返しなのである。
以前このコラムでも書いたことなのであるが、要するに我が国地方には戦後、壮大な規模で「利権構造」が築かれて来ているのであって、これにメスを入れられるのが怖いのである。表向きはどうであれ、「蟻の一穴」であり、この「利権構造」の一端を見られてしまっては困るのだ。したがって絶対に中によそ者は入れないということになってくる。だが、問題はそもそもこの「利権構造」を存立せしめてきた事情が全く変わったということにこれら地方人士が気付いていないこと点にあるのだ。簡単にまとめていうならばこういうことだ:
―まず、戦後の我が国経済は外務省を主導とした「日米同盟墨守」に依ってきた。そしてそのことを通じて圧倒的に有利な交易条件(強烈な「円安ドル高」レートなど)を確保し、輸出攻勢を世界全体にかけることを通じて、巨額の国富の我が国への移転を行って来たのである。これによって裨益するのはまず、我が国において輸出を担当する一連の大企業とその周辺に位置する大企業たちであった。そしてそこに務める「サラリーマン」たちから源泉徴収で根こそぎ税金が国庫へと収められるのである
―次に、我が国国内において新産業セクターが創出される度に経済官庁たちが次々に「規制」をかけていく。「国民生活の安定」「国民の安全」などを確保するためというわけだが、その実、こうした規制に従う企業とそうではない企業を線引きするためにこうした施策が使われてきた。そして前者は「業界」とみなされ、その頂上団体が公益法人として認められる中、当該規制官庁の幹部たちがそこに“天下り”を行うことになる。そして「業界」に対しては多額の補助金が支払われる。無論その原資は先ほどサラリーマンたちから源泉徴収された税金である
―もっともこの様にして作られた「業界」で取引される価格は補助金が上積みされている分だけ高くなるのであって、マーケットにおける実勢価格とは大きく異なるのだ。したがって「実勢価格」で取引したいと普通は考える市場参加者たちのために、あえて法を破ってこれを行う者たちがとりわけ地域経済においては出て来るのである。いわゆる「反社会的勢力」であり、別名“アウトロー”と言われる者たちだ
―この様にして公定価格と実勢価格の差が出て来ると、結果としてその差額が浮いてくるわけだが、実のところ先ほどの「業界団体」(シロ)と「アウトロー」(クロ)は地元政治家たちを結節点としてつながっているのである。そして、ここでいう差額はこれらの者たち全員に分配されていくことになる。無論、関係した官公庁の者たちも”天下り“や”タクシー券によるキックバック“といった形であの甘い汁を吸うことになるのである
―加えていうと、そうした「ダークなマネー」は通常ならば置き場所に困るわけだが、これまではそうはなって来なかったのである。なぜならば地域金融機関がまたぞろ、そうした事実を知りつつも、”知らないふり“をしながら預金として受け付けてきた経緯があるからだ。無論、こうした「ダークなマネー」は普通ならばその引出しにあたっても問題が生じるわけだが、何分全員が全員、”グル“なのでそうした問題は生じないのである。「地域経済・社会の発展のため」という名目でそれは費消され、闇から闇へと消えていく
率直に言おう。―――戦後日本において構築され、関係者たちによって営々と築かれてきた「利権構造」はもはや成り立たないのである。そのことに気付かず、「これまでどおりのやり方で甘い汁を吸い続けることができる」などと我が国地方人士が仮に思っているのならば大きな間違いなのである。その理由を箇条書きするならばこうなる:
―そもそも「太陽活動の激変が気候変動を招き、とりわけ我が国を含む北半球では気候寒冷化が厳しくなる中、最終的には経済がデフレ縮小化する」という状況が着々と進展する中、追い詰められた米国勢はもはや我が国にいかなる意味でも優遇措置をとるまいという態度に転じている。無論、国富の無制限の移転を実質的に内容とする「日米同盟」は今のところ維持されているものの、それが本当に今後も続けられるのかは全くもって我が国の財政状況如何なのである。仮にそれが「不可抗力」を装う形で意図的に”デフォルト(国家債務不履行)“へと導かれるというのであれば、延焼を恐れた米国勢はその前に我が国を切り離しにかかるはずなのだ
―また国富を潤わせてくれてきていたサラリーマン階層が人口減少の中で我が国では今後、劇的に少なくなるのである。源泉徴収先がその分大幅に減るのであれば、これまでのやり方がうまくいかなくなるのは当然だ。他方でこれまで優遇税制を与えてきた様々な主体に対して今更ながら税を徴収しようとすると、これはこれで大仕事なのである。無論、最後は国家の強権を発動してということになるわけだが、今度は国政選挙で大きなしっぺ返しを受けるのである。そのため、税務当局によるそうした目論見は「政治レヴェル」によってものの見事に粉砕されてしまうことになる。今回の「消費増税再延期」という醜態を見れば、そのことは火を見るより明らかなのである
―この様に原資が無い以上、規制をかけて業界(団体)をつくり、公定価格と実勢価格の差を抜く中、皆で甘い汁を吸うなどというやり方がもはや成り立つはずもないのだ。その結果、「利権構造」は過去につくられた分はともかくとして、新たに構築されることはなくなってくる。加えて、「ドル安円高」がしばしば米国勢によって企てられる中で、地方経済をこれまで潤わせてきた大企業の国内生産拠点は交易条件の変化を理由に、次々に海外へと移転している。これらダブル・パンチによって地方経済は正に疲弊の一途を辿ることになるのだ
地元金融機関はというと、こうしたビッグ・ピクチャーの劇的な変化に全く気付いていないのである。それもそのはず、これまでのところ上述のような形で大量に貯め込まれた「ダーク・マネー」がまだ存在しているからである。しかし地域金融機関も程なくして厳しい現実に直面することになる。“その時”は着実に近づいているのである。
端的に言うならばこういうことだ。―――名目金利を引き下げ(=マイナス金利の導入)、その一方でインフレを本格展開することにより(=商品価格の着実な上昇)、両者の差である実質金利を大いにマイナス化させ、もってイノヴェーションを次々に起こさせることにより脱出口を探ろうというのが、中央銀行家たちの戦略なのである。ところが肝心のイノヴェーションがそれでも出て来ないとなると話は全く違ってくるのである。インフレの本格展開がやがて「ハイパーインフレーション」へと転ずる懸念にまで至るのであれば、今度は名目金利を引き上げなければならないことになる(=米政策金利引き上げ)。すると公的債務残高が多い国々から容赦なく「利払い滞り(懸念)」を理由に今度は“デフォルト(国家債務不履行)”へと陥ることになるのである。
その筆頭格が我が国なのである。未だに「民間セクターの対外債権が世界最大規模なのだから大丈夫」「日本国債の9割以上は日本人が持っているのだから大丈夫」などといった寝ぼけた議論をする者たちが後を絶たないわけであるが、リアリティを知らないそうした議論は一切無視して良い。現実には、日本国債の取引をマーケットで行っている者の八割が「外国人」であり、かつ長期金利が我が国において1パーセント上がれば10兆円の利払い額が増えることを念頭におけば、そうした現実に「外国人」投資家たちが日々のトレーディングの中でいかなる反応をやがて示し始めるのかは自ずから明らかなのだ。そしてある瞬間に「日本国債の投げ売り」が企てられ、金利が急騰し、ますます我が国は窮乏。そしてついには“デフォルト(国家債務不履行)”に陥るというわけなのである。
そこで最も損害を被るものの一つが件の地域金融機関である。大量の「ダーク・マネー」を含め、これら地域金融機関の抱える預金はその実、「日本国債」として保有されている。しかしその肝心の「日本国債」が紙屑になるというわけであるのだから、大惨事なのである。既に一部のメガバンクは自前の「仮想通貨」を創り出し、価値の保全に務め始めているが、地域金融機関にはそのようなあらかじめの発想も、余裕もないのである。そもそも地域経済が依存している地方債が、我が国の“デフォルト(国家債務不履行)”によって機能不全に陥り、地方自治体の連鎖倒産へと至る中にあって、地域金融機関が選ぶことができる道は二つしかない。これら先進的なメガバンクへの吸収合併から、それでも何もせずに座して死す(=倒産する)かのいずれか、である。もう、誰も助けてはくれないのである。
これで私たちの研究所が仙台を皮切りに「地域グローバル経営者・起業塾」の開催に向け鋭意努力をしている本当の理由をお分かり頂けたのではないかと思う。天から降って来るのを待つのではなく、それぞれの地場において「富の源泉」となるアントレプレナーシップを急ピッチで育むこと。そしてそのことを通じて我が国の国家財政が何時如何なる形で破綻するにせよ、それでも持ちこたえられるだけの地域経済を創り出すこと。これこそがこのプロジェクトの目的なのである。
「目的はよく分かった。しかしそうではあってもそこで得られる“富”が日本円であれば、結局のところ我が国の“デフォルト(国家債務不履行)”に巻き込まれてしまうのがオチなのでは」
そう考える読者も大勢いるのではないかと思う。心配することなかれ、日本銀行や金融庁といった当局はこの点について、分かる人には分かるように既に抜け道を創っているのである。「仮想通貨」である。端的に言うならば、世界中で危機が起きる度に価値を挙げているのが仮想通貨であり、とりわけその中でも最大の規模を誇る「ビットコイン(Bitcoin)」なのだ。P2Pで価値保全がなされる仮想通貨であれば、国家財政がどうなっても関係はないのである。そのことにやがて人々が気付き、大量のグローバル・マネーが仮想通貨へとなだれ込むことにより、その価値は着実に急騰していく。そうである以上、我が国の地域経済の次の担い手となるべきアントレプレナーたちがその支払い手段を「仮想通貨」にしないという理由がどこにあるだろうか。そして彼・彼女らこそ、これまでの戦後日本が築き上げてきた「利権構造」を源泉とするダーク・マネーとは無縁の存在として、未来の我が国を創り上げる真のリーダーシップへと飛翔することになるのである。
そうした中で私たちIISIAは「地域グローバル経営者・起業塾」を地域同士でリンケージさせると共に、国外のネットワークともつなげる形でこうした新しいリーダーたる地域アントレプレナーたちを生み出し、支え、飛翔させる場にして行きたいと考えている。確かに残された時間は少ない。短く見積もればあと2年、長くてもあと5年を切っているといったところである。しかしだからこそ、駆け抜けることに意味があり、フレームワークの転換をこの手で実現することに意味があるのだ。志を均しくする者たちと全国津々浦々で出会うことを、心から楽しみにしている。
2016年6月12日 東京・仙石山にて
原田 武夫記す
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