B20アンカラ・サミットで考えたこと。 - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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B20アンカラ・サミットで考えたこと。

 

3日からトルコ・アンカラで開催されたB20サミットに出席して来た。B20についてはこのコラムで何度も書いてきたので読者の皆さんも先刻ご承知であろうが、簡単に言うと政府間会合であるG20を支える会議体としてグローバル・ビジネス・リーダーを集めて行われているものである。固定された事務局はなく、G20の議長国となった国の民間商工団体が暫定的にリードすることになる。私はこのB20に、今年(2015年)から議長国トルコの肝煎りで設置された「中小企業(SME)及び起業(Entrepreneurship)」タスクフォースの一員として出席することが許され、我が国からただ一人の出席者としてそこでの議論に積極的に参加してきた経緯がある。

今回の会合はいわば「イヴェント」であり、そこでの議論そのものに意味があるといった類のものではなかった。B20は今年(2015年)の場合、昨年(2014年)12月に議長国トルコがキックオフをして以来、特に3月からはタスクフォース(分科会)別に議論を集中的に行って来た。3月にまずはイスタンブールで、4月にはワシントンDC、6月にはパリで、といった具合にである。その間、2度にわたり電話会議(telephone conference)が日本時間の夜に行われたが、これら全てに私は参加・出席した。その過程で意見を述べる機会はいくらでもあったわけであり、かつ会議プロセスの中でナレッジ・パートナーを務めてきたグローバル・コンサルティング・ファーム「アクセンチュア」の幹部たちが作ったペーパーにも、しっかりと私の述べた内容が記載された次第である。そしてそうやって出来上がった「政策提言(policy recommendation)」の原案は、まずもって私たちB20の参加者による投票に課せられ、その上で「然るべきステークホルダー」に諮問し、いよいよG20の側、つまり政府レヴェルへと今回提示されたというわけなのである。今回のB20会合ではそのため、G20財務大臣・中央銀行総裁会合との合同セッションも実施された。すなわち、以上の様なプロセスにまずはじっくりと付き合わない限り、ここで正に形成されていくグローバル・アジェンダ、そしてそれに基づくグローバル・ガヴァナンスには参画すら出来ないということになってくるわけなのだ。

今回のサミットで繰り広げられた議論の詳細を述べることは紙幅の都合上、当然出来ないが、いくつか気になったことについて備忘もかねて触れておきたいと思う。

まず議長国であるトルコの指導者「エルドアン大統領」からは明確に、G20プロセスにおいても経済・金融だけではなく、政治・外交・安全保障についても取り上げるべきだとの発言があったことだ。この点、私が知る限り、我が国政府は来年(2016年)自らが議長国を務める「G7サミット」の準備にのみ専心しており、よもやG20でまともな議論が政治・外交・安全保障について行うことが出来るとは考えていない節がある。だが、来年(2016年)のG20議長国は中国なのだ。トルコが打ち出したこうしたラインの延長線上で中国も政治・外交・安全保障についてリードし始めるならば、これは当然、我が国にとっても全く無関心ではいられなくなってくる。だが、そのことに何人の我が国政府関係者が気付いているだろうか。甚だ疑問だ。

他方、デジタル・エコノミーの今後の展開についてもいくつか大変興味深い発言があった。人工知能(AI)の活用によって局面を一気に変えるというのがそこでの基本ラインであることはよく分かったわけであるが、それによって生じる大量の失業者については「訓練を行うことで適応を図るべき」、さらには「より広範な範囲でチャンスを与えることで雇用を創出すれば、既存の労働者たちが失業していくのとトレードオフになるのではないか」といった議論が見え隠れした点が気になった。これらの方向性の上で人類全体がここから二極化していくのは目に見えている。

無論、経営者(CEO)であっても油断は絶対に出来ないのである。会合全体を下支えしていたグローバル・コンサルティング・ファームのCEOはこうも言い切ったのである。

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「今や人工知能(AI)にまで至ったデジタル・エコノミーの最近の展開はSMACSという語で表される。つまりS=social, M=mobility, A=analytics, C=cloud, そしてS=securityだ。この意味での変革はまずビジネス・モデルから始まった。それが次に企業内部での変化に及んでおり、ついにはCEO自身のデジタル化にまで及んでいる」

我が国の大企業に勤めている典型的なビジネスパーソンである読者には今一つピンと来ないかもしれないが、要するにこれが一番適合的なのは、元気なSME(中小企業)ないしentrepreneur(起業家)であり、かつCEO自身がグローバルに飛び回ることで運営されているような企業の現場なのである。デジタル化が進むことにより、これまで現場から経営者(CEO)にまで至る伝言ゲームを行うに過ぎなかった人員は完全に淘汰され続けている。セキュリティを考えつつも、クラウド化してしまえばCEO自身が経営管理をタブレット一つで地球の裏側から出来てしまうからだ。事ここに及んで、私たちはこのまま「伝言ゲームの伝書鳩」であろうとして打ち捨てられるか(もはや「単純労働」すらIoTで存在しなくなりつつある)、あるいは自らを信じて己の果たすべき役割を事業化していくという意味での「起業家(entrepreneurship)」を目指すかのどちらかを選ばざるを得なくなるのだ。無論、これがこれまで弊研究所が何度も分析を提示してきた「太陽活動の異変を契機としたグローバル経済のデフレ縮小化」に対応するための策であることは言うまでもない。ただそれとして語られることはなく、B20、さらにはG20という枠組みを通じて私たち日本人の頭の上に、この枠組みが程なくして振って来るに過ぎないのである。そのことを、私はトルコ・アンカラで直感した。

最後に2つだけ。私は上記の様な次第であるので、これから全世界的な「起業ブーム」が到来するのではないかと考え始めている。もっとも起業といってもかつての”ホリエモン“の様なゲームプレイヤーの創出ではない。「digital/global/inclusive」の3つを兼ね備えたビジネスの担い手たちが求められるのである。M&Aゲームを繰り返して一攫千金を狙うのではなく、とりわけinclusiveness(包含性)とglobal(グローバル)の2つの能力、そして何よりもそこで国内外とつながっていくことの出来る能力が求められてくる。そうした能力の持ち主は今後、トルコがホストする形で創られる世界中小企業フォーラム(World SME Forum)が設置するクラウド・ファンディングのためのオンライン・プラットフォームで「発見」され、全世界からファイナンスを受けることが出来るようになる。金融セクターでもまた、「中抜き」が行われるというわけなのだ。「今」が大創業時代の到来であることを、一体何人の日本人が理解しているだろうか。

そして何よりも、こうしたうねりを創り出し、かつ政府サイドにまでその「執行」を強く求めていく会議体であるB20に対する我が国の側の理解が決定的に足りないのが問題なのである。簡単に言えば「一体何をしているのか理解出来ない」のである。これまで私は官民共に関係組織を廻ってきたが、いずれも「???」といった様子であった。正直、そうした反応を目の当りにし、我が国がいかに朽ちているのかを痛感してきた次第である。このままでは我が国がどうなるのか、もはや目に見えているというのが正直なところだ。

このコラムがアップロードされる頃、私は帰りの空路上であるはずだ。帰国次第、早速ローラーでこうした問題意識を我が国のリーダーシップへと刷り込むのと同時に、私自身、アクションを執っていきたいと思う。「次の時代」はもう、すぐそこまで見え始めている。

2015年9月5日 トルコ・アンカラにて

原田 武夫記す

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