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弊研究所研究員のコラムを掲載いたしました

【同性カップルに対する新型コロナウイルスの影響】
お陰様で大好評を頂いております、弊研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット所属のグローバル調査コンサルタントによるリレー連載のコラム。
今回は佐藤奈桜のコラムを掲載させて頂きます。

下記よりどうぞご笑覧下さい。
そして・・・拡散を!

・・・
同性カップルに対する新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)パンデミックは、
LGBTI (レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックス)の
人々に対して感染以外にも派生する不安や問題をもたらしていることが世界的に指摘されている
(例えば国際連合人権高等弁務官事務所による報告)。
我が国においても例外ではない。我が国では同性婚が法的に認められていないため、
それにともなった問題が顕在化している状況がある。
一般社団法人「Marriage For All Japan —結婚の自由をすべての人に」が行ったアンケート調査によれば、
COVID-19感染拡大に伴う不安や困難(パートナーとの関係が保障されていないことで/LGBTI当事者・関係者として)としては
、医療面での不利益と意図せぬカミングアウトが回答の上位を占めている。

医療面での不利益
同性カップルの医療現場における不安定な立場はCOVID-19パンデミック以前から問題視されていた。
意識がない状態で医療機関に搬送された場合、パートナーは(夫婦であれば必要のない)関係性の説明が求められる。
そして関係を説明しても、家族とみなすかどうかは個々の医師の判断にかかっている。
つまり、医師の判断によってパートナーの病状の説明が受けられるか、
面会や緊急手術の同意書への署名ができるかが決まるのである。この問題はパンデミック以前から存在するが、
COVID-19感染拡大で、より多くの同性カップルがこれを差し迫った不安と感じているのではないか。
(参考:http://douseikon.net/?p=1543)

意図せぬカミングアウト
我が国では厚生労働省のクラスター対策班の方針にもとづき、
各自治体で感染者の行動歴を把握する疫学調査が実施されている。
感染経路を特定する過程で関係が公になるリスクがある。
またパートナーの感染により「濃厚接触者」となった場合には職場等で性的指向が明らかになってしまう可能性がある。
また在宅での勤務によって、プライベートな空間が職場にさらされることで
パートナーとの関係が明らかになるという不安もある。こうしたプライバシーの問題は
異性カップルや個々人にとっても共通するものではある。
しかし、性的指向が差別の対象となりうる同性カップルにとってはより深刻な人権問題となる。

このアンケート結果は、同性カップルに対する法的保護の必要性がCOVID-19パンデミックによって
より喫緊の課題として顕在化したことを示しているのではないか。
もし同性カップルにも異性カップルと同様に法的に結婚が認められていれば
(少なくともそれと同様の効果のある制度が認められていれば)、
上述のような医療現場における不安定な立場から起こる不利益は解決されうる。
意図せぬカミングアウトという問題はより複雑であるものの、
同性婚が法的に認められれば少なくとも偏見にもとづく不当な解雇や差別的態度は許されないという認識につながる。
法的保護は直接に同性カップルに対する差別をなくすものではないが、
法的に認めることで一定の改善が期待できることも事実であろう。
こうした点で(上述のアンケートが同性婚の法的保護を目的とした団体であるということを考慮しても)、
同性婚の法的保護はCOVID-19パンデミックによって提起された重要な課題であると言える。

すでに述べたように、我が国では同性婚は法的に認められていない。
判例では2019年9月18日に宇都宮地方裁判所真岡支部が、不貞行為による関係破局についての損害賠償請求で、
同性カップルを男女のカップルと同様にみなす判決を下した
(参考:https://news.yahoo.co.jp/byline/minaminoshigeru/20190921-00143632/)。
他方で2020年6月4日、名古屋地方裁判所は「社会通念」が形成されていないことを根拠として「犯罪被害給費制度」の
遺族給付金の受領者として同性のパートナーを認めない判決を下した
(参考:https://www.outjapan.co.jp/lgbtcolumn_news/news/2020/6/4.html)。
下級審での判決であることも踏まえ、同性婚の法的評価は今後も注視する必要がある。

こうした中で、地方自治体の動きには実質的などうせカップルへの保障として注目すべきものがある。
2015年4月に東京・渋谷区と世田谷区で始まった「同性パートナーシップ」は5年が経ち、
現在では30を超える自治体がこれを取り入れている。法的結婚と同様の拘束力を持つものではないとはいえ、
一定程度の影響力を持っていると言えよう。そして去る6月11日、世田谷区はCOVID-19感染による「傷病手当」の遺族申請を、同性のパートナーにも可能とすることを発表した(参照:https://www.huffingtonpost.jp/entry/setagayaku-corona-support_jp_5eddbf47c5b607781831e300?utm_hp_ref=jp-homepage)。
自治体による国の傷病手当金の取り扱いとしては初の取り組みであり、
LGBTIの人々に対する公的保護の新たなステップとして注目される。

我が国においてCOVID-19パンデミックの最中で同性カップルが直面する問題の多くはそれ以前から存在していた。
この意味で、COVID-19が収束によってこれらの問題を過去のものとしてはならない。
COVID-19によって顕在化したことをきっかけに、同性婚の法的保護や社会意識の変革など、
同性カップルの抱える困難の解決に社会全体として取り組んでいく必要があるだろう。

グローバル・インテリジェンス・ユニット
佐藤 奈桜 記す

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