セルフレジの前で考えたこと - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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セルフレジの前で考えたこと

10月にしてエストニアでは一足飛びに気温が氷点下に入ってしまいました。
先日夜に歯が痛み出し、後日歯医者と、治療のため総合病院の施設でレントゲンを撮ってきました。
ひさしぶりに受付の無愛想なおばちゃんたちにエストニア語でツラツラと喋りかけられ、思わずちょっと動揺。

観光名所である旧市街地の近くに住み、見た目がもろに「外国人」の私はそもそもエストニア語で話しかけられること自体が極端に少ないのです。

しかし既にエストニアに来て半年ほど。私のエストニア語耐性無効化に明らかに貢献しているのがスーパーのセルフレジまたは無人レジ(以下セルフレジで統一)です。
私がよく利用する大型チェーンスーパーの近所の店舗にはセルフレジが完備されているため一言も他人と言葉を交わさずに買い物を完了することができます。画面は当然、英語選択可能。
なるべく対面サービスを避けたい対人スキルの低い私としてはセルフレジ、最高に便利なのでやめる気はありませんが、いつまでたっても現地語には慣れません。

私は日本でセルフレジを使ったことがなく体験的な比較はできないのですが、
軽くインターネットで検索したところ、食料品や衣料品、DVDやCDのレンタルショップなどで日本でも例に漏れず徐々に普及しつつあるようですね。

操作方法の説明の他、どちらかというと万引きや誤魔化しへの懸念意見が多く見受けられました。
これにはICタグやICシールをつける方向で解決に向かわせるようです。
(コスト面からすぐの対応は難しそうですが)

一方英語でself-checkoutやself-cashierなどを検索すると、度重なるエラー(スキャンした商品を購買済みエリアに置いたにも関わらず反応しない、または逆にスキャン済みなのに購買済みエリアに置くと未スキャンとして反応するなど)のため顧客の満足度はむしろ下がっている、といった意見が散見されます。

確かに私も最初の方はこれに必ず引っかかっていましたが、最近はほとんどそういうこともないので客側の慣れ、またはセルフレジ自身の性能の問題でしょう。
物理的なアップデートはそうそう簡単にはできないと思うので、こちらも急激なコストダウンが起こらない限りはすぐの解決は難しそうです。

また日本のセルフレジについて使い方動画を見てみました。
全体的にこちらのUIに比べて支払い方法など選択するべき操作が多く、確かに初見ではちょっと敬遠してしまうかもしれません。

実際私の両親がスーパーでセルフレジを使った時の話を聞きましたが、
日々の買い物でレジ操作を見慣れている母は問題なかったものの、意気揚々と手を出した父が大層手間取り使わなくなったそうです(笑)こちらは明らかに慣れの問題でしょう。
面白いなと思ったのが、日本のセルフレジに多く現金の対応があったことです。
こちらではセルフレジに現金の取扱はなく、クレジットカードのみ。(電子マネー類はそもそもありません)
日本では現金の取り扱いが多く、自動釣銭機がかなり普及しているという理由もあるかもしれません。

反対にエストニア側に特有な点は量り売り対応でしょうか。
スキャン台がそのまま量りになっており、商品を選択して台に載せるだけで特に難しいことはありません。
また最小g数と場合によっては最大g数が設定されているので、例えばスイカを選択してプチトマト数個分を載せてもエラーになります。

惣菜パンなどある程度1個の重さが平均化されている場合は、数量と重量によってはこちらもエラーがでます。

その他、エストニアでは22時以降アルコール販売ができませんのでこの場合はスキャンできません。
そもそもアルコールが含まれている場合、支払前に一度店員による承認が必要です。
エラーや承認時は、出口で待機している店員さんがキーをかざしてちょこちょこと操作してくれます。

客数が少ないときなど無人の場合もありますが、エラーが出たり呼び出しボタンをタップすると何らかの連絡が行くのか割りとすぐに駆けつけてくれます。

万引き防止とも重なると思いますが、セルフレジとはいえ上記のように必ず店員が1人はつく必要があります。
このため1台や2台では導入する意味が薄く、複数台の導入で始めて効果を上げることから
ある程度の規模や集客数が店舗に必要でしょう。

実際同じチェーン店でも規模の小さい店舗や営業時間の短い店舗ではセルフレジの導入はありません。恐らく最小6台単位のまとまりでスペースが確保されているようです。

そういう点から考えると、コンビニや小規模店が乱立する日本の繁華街エリアでは今後もあんまりセルフレジは流行らないのかもしれません。
住宅街付近の食料品店、スーパーなどでは柔軟なタイムサービス等の対応がひとつネックでしょうか。
門前の坊主ではありませんが、買い物達人の主婦層やバイト・パートなど作業経験者が本来従業員を教育しなければいけない店舗側の作業を行うのは店舗にとっても、新人相手にイライラしがちな客側にとってもいいことだと思います。

長時間営業で時間帯によって客数の増減が大きい場合などにも効果が高いでしょう。

一方でそもそも購買行為に慣れておらず具体的な作業をイメージできない層が多い、一人あたりの購買点数が平均的に多い場合、子連れの場合、何か特殊な作業が発生する可能性が高い場合、そして何より忙しいピークの時間帯では作業に手慣れた店員が対応する対人レジの方がいいと思います。

レジ袋、ポイント制度、特殊な割引、カードの有無など突然聞かれると日本でもエストニアでも
シドロモドロになるので、これに関してはタッチひとつで言語切替ができ内容が確認できるセルフレジに軍配があがると思います。
(もちろん各店舗が求めるような細かい設定が柔軟に対応できるかどうかというソフトの問題はあるかもしれませんが、そもそもそんな複雑な仕組みが必要なのか…)

個人的にセルフレジは非常に便利で、確かにある程度合理的で効率的だと思います。
一方でまだ制約も多く、効果の出る場面も限定的だと想像できます。
実際に数字を使ってシミュレーションすれば多くの場合でもっと複雑で微妙な結果になってしまうのではないでしょうか。

更に雇用条件や人件費、初期費用、客足なども考える必要があるので、徒歩5分のスーパーに使いやすいセルフレジが並んでいる今の環境は非常に様々な偶然の条件が一致した幸運な結果なだけかもしれません。
逆に衣料店やレンタルショップなどを考えると、エストニアの首都圏でもそれほどの規模の店舗はそうそう見かけないので今後日本のようにセルフレジが導入される線は薄いと思います。
素人がコストやその他面倒な外部環境を一切度外視してちょっと考えただけでも文化や人口、労働環境や消費者の習慣など目につく項目が多岐に渡るので、実際の経営判断というのは本当に想像を絶する大変さです。

…ということを、最近プロジェクトが変わり、今度は海外向けECサイトになったこともありちょっと頭の切り替えも兼ねて考えてみました。日常の中で無心に商品をスキャンする時間があるのも、私は悪くないと思うのですが。
 
【プロフィール】

楼 まりあ

神戸・東京・マニラのオフショア開発を繋ぐブリッジSEとして、そして東欧での新拠点をリサーチするため現在エストニア現地企業で外部契約社員としてタリンで在宅勤務。大学時代、マニラオフィスのオープンスタッフとして1年間マニラに滞在。NYでインターン経験有。

東京大学経済学部卒。

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